サンスターグループ ヘルス&ビューティーカンパニー(以下サンスター)は、椙山女学園大学 生活科学部(愛知県名古屋市千種区)の上甲恭平教授の協力のもと 加齢とともに衰える髪質をケアする研究に取り組んできた結果、 毛髪内の亜鉛と髪質(ハリコシ)との関係が明らかになり、 亜鉛 を毛髪に浸透させることで、衰えた髪質を回復する新しいヘアケア技術の開発に成功したと発表しました。
亜鉛 研究の背景
加齢に伴い毛髪のハリコシが低下し、きれいにまとまらない、思い通りのヘアスタイルがつくりにくいという悩みが多くなります。 従来はヘアスタイリング剤に含まれるワックス成分や高分子の乾燥皮膜で覆って毛髪表面を補強する方法が一般的でしたが、手触りがごわごわするなどの問題もありました。
サンスターでは毛髪内部の構造を強化することで衰えた髪質を改善し、毛髪表面の感触は自然なまましなやかでかつハリコシのある毛髪を実現するためのヘアケア技術の開発を目指し、2009年から研究を進めてきたということです。
開発の経緯
加齢とともに毛髪のハリコシが衰える原因は、毛髪の内部の構造が変化するためではないかと考え、様々な調査を行いました。
その結果、40代以降では毛髪内の亜鉛が減少することが報告されていました。さらに上甲恭平教授は亜鉛が羊毛の細胞膜複合体(以下CMC)に多く存在していることを報告しています。 これらの知見に着目し、加齢とともにハリコシが低下するのは毛髪のCMCに含まれる亜鉛が加齢により減少しているためではないかと考え、上甲恭平教授と研究を開始しました。
研究結果
1)毛髪のハリコシと亜鉛の関係について
まず、毛髪のCMCに優先的に作用してその構造を変化させるギ酸という酸に毛髪を浸漬し、処理時間違いでハリコシの官能評価を実施しました。 その結果、ギ酸処理時間が長いほど毛髪のハリコシが減少し、ギ酸処理30分では有意にハリコシが減少する結果が得られました。 さらに、これらの毛髪内の亜鉛量を測定した結果ギ酸処理時間が長いほど、毛髪内の 亜鉛 の量も減少していることがわかりました。このように、毛髪から亜鉛が減少すると、毛髪のハリコシも減少することが明らかになりました。
2)亜鉛化合物の浸透と毛髪内の 亜鉛 の確認 加齢により減少するハリコシの低下は40代以降に緩やかに起こることから、ギ酸での浸漬時間の短い処理毛髪(15分間)を加齢モデル毛に設定しました。 そして加齢モデル毛に対し、亜鉛化合物による亜鉛の浸透を試みました。その結果、加齢モデル毛にグルコン酸亜鉛水溶液を1時間浸透させることで、加齢モデル毛で起きたハリコシの低下が、有意に向上することを確認したといいます。
次に、毛髪内のどこにどれくらいの量の亜鉛が浸透したかを確認するため、高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設「フォトンファクトリー」の協力の元、蛍光X線分析を実施しました。そして、官能評価でハリコシの向上がみられたグルコン酸亜鉛水溶液で処理した毛髪では、キューティクル層の内側に多く、亜鉛が浸透していることを確認しました。
さらに、後から毛髪に浸透させた亜鉛が毛髪内でどのような構造になっているのかを確認するため、フォトンファクトリーのX線吸収微細構造解析で確認しました。その結果、浸透させた亜鉛は、もともと毛髪内で存在していた亜鉛と同じ構造となって毛髪内のアミノ酸等と結合していると考えられたことから、この構造が毛髪のハリコシに関与していることを見出しました。
3)イオン化による浸透促進技術 最後に、短時間ではキューティクル層の内側に浸透しにくい亜鉛の浸透を促進させる技術の開発に取り組みました。そして、亜鉛の浸透を促進する方法としてイオンに着目し、亜鉛を含む薬剤にイオンを付加することで、毛髪のキューティクル層の内側への亜鉛の浸透が促進され、短時間の処理で有意にハリコシ改善効果を実感できることを確認いたしました。
これらの研究成果は2014年10月にパリで開催された国際化粧品技術者会会議「IFSCC 2014 Congress」(IFSCC= The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists)にてポスター発表されました。
また、毛髪の物性の解析方法等の基礎研究成果は繊維機械学会誌(Vol.61, No.4, 2015)に掲載された他、亜鉛が毛髪内で形成する局所構造の解析の詳細については、フォトンファクトリーのホームページ内「Photon Factory Activity Report 2015」で掲載される予定だということです。