オレがジャズに夢中になり始めた頃、それはもう半世紀も前のことになるが、多くの若者にとって、アメリカは夢の国だった。
我々とは及びもつかないリッチで洗練されたゴージャスな世界。目にし耳にするあらゆる物が、文句なく憧れの対象だった。
映画もファッションも音楽も文学も、あまりにクールで、触れる度に全身全霊に刺激を受けたものだ。
スクリーンの中で見るマリリン・モンローは、ほとんど洗濯などしたことのない、黒の薄汚れた学生服に身を包んだ オレには眩しすぎた。 服やヘアー・スタイルなど、何とか似せようとあくせくしたが、所詮土台が違いすぎる。オレの周りにマリリン・モンローはいなかったし、オレもジェームス・ディーンにはなれなかった。 でも、そんな中でジャズだけはいけそうだった。小遣いの殆どをはたいて、レコードを買い漁り、毎晩深夜まで、それこそすり切れるほどに聴いた。そのうちアドリブ・フレーズを空で歌えるようになった。 結局高校卒業後、一応大学に籍は置いたまま、だが殆ど通わずに、オレはベーシストとしてプロの道に入ったのだ。たまに大学のそばまで行くと、学内には行かず、近くの麻雀屋にしけ込んだ。 ところで今時の若者には理解できないかもしれないが、あの当時のツッパリ野郎は、皆例外なく額の生え際に剃りを入れていた。日本人の額は生え際が丸い丸額が多く、なんだか子供じみていて迫力がない。 それに比べて、映画で見るアメリカの俳優は、M字額ばかりで、時にはアゴも二つに割れていたりする。アメリカに心酔しきっていた我々は、だからどうしても剃りを入れる必要があったのだ。 オレなどは剃ってもいずれ生えてくるのだからと、毛抜きで額の毛を抜いた。血だらけだ。どうだ、ワイルドだろう? 今になって思えば、どうせそのうち薄くなってくるのだから、そんな馬鹿なことをしなければ良かった。若気の至り。若毛は大事にしなきゃあな、だが後の祭りだ。 …to be continued.